株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
8月31日、多くのヨーロッパリーグで夏の移籍市場がクローズします。
── 「レンタル」の正体と、移籍市場の”モヤモヤ”の話 ──
8月31日、多くのヨーロッパリーグで夏の移籍市場がクローズします。
毎年この時期、サッカー好きのタイムラインは移籍情報で埋め尽くされますが、サッカーにあまり詳しくない友人からはこんな声をよく聞きます。
「移籍したのに、なんで試合に出ないの・?」
「え、また別の国のクラブに貸し出されるの・?」
「なんか……人身売買みたいだね……?!」
正直、最初にこの感想を聞いたとき、ちょっとドキッとしました。
ふざけた冗談というより、素朴な違和感として言われることが多いからです。
今日は、この「モヤモヤ」の正体を、2026年ワールドカップでブレイクした選手たちの実例も交えながら、できるだけ正直に整理してみようと思います。
そもそも「移籍」と「レンタル」は何が違うのか
レンタルが存在する理由は、実はかなり合理的です。
若手選手に実戦経験を積ませたいが、自チームでは出場機会を保証できない
買う側のクラブは、完全移籍の大金を払う前に「お試し」で選手の実力を見極めたい
売る側のクラブは、今すぐ手放したくないが目先の資金は必要
ケガからの復帰段階で、プレッシャーの少ない環境で試合勘を戻したい
つまりレンタル自体は、選手のキャリア形成にとって理にかなった仕組みとして使われることのほうが、実は多いのです。
「移籍したのに出られない」の現実的な理由
ここが一番誤解されやすいポイントだと思います。
実際には、いくつもの制度的な壁があります。
登録の締め切りとタイミングのズレ。
多くのリーグは移籍市場のクローズ日と、公式戦の登録メンバー(スコッド)提出締め切りが微妙にずれています。移籍市場ギリギリで加入した選手が、次の登録更新まで公式戦に出られないケースは珍しくありません。
国際移籍証明書(ITC)の発行待ち。
国をまたぐ移籍では、旧所属協会から新所属協会へ選手登録を移すITCの発行が必要で、これに数日~数週間かかることがあります。
労働許可(ワークパーミット)。
特にイギリスでは、EU域外選手はGBE(Governing Body Endorsement)ポイント制度をクリアしないと労働許可が下りず、代表実績や所属リーグのランキングによっては加入即戦力にならないことがあります。
単純に、監督の戦術・信頼構築の問題。
新加入選手がチームに馴染み、監督の信頼を得るまでには時間がかかります。
「移籍前から行き先が決まっているレンタル」もある
ここから少し話がややこしくなります。
実は「契約を結ぶ前から、レンタル先がすでに決まっている」という移籍のかたちも存在します。
これ自体は、必ずしも悪いことではありません。
たとえば同じオーナーグループが複数のクラブを持つ「マルチクラブ経営」(シティ・フットボール・グループやレッドブルのネットワークなどが有名)では、若手選手をグループ内の育成に適したクラブへ計画的に配置する、という使われ方をします。
選手のキャリア設計として合理的な場合も多いのです。
問題は、これが弱い立場の選手、とりわけ未成年選手に対して行われるときです。
「人身売買みたい」という感覚は、実はまったくの的外れではない
ここが今回、正面から書きたかった部分です。
結論から言うと、「人身売買」という言葉自体は法的にも実態的にも正確ではありませんが、その感覚が拾っている”何か”は、サッカー界でも長年問題視されてきた本物の構造です。
FIFAは2009年、「18歳未満選手の国際移籍」を原則禁止する規約(第19条)を作りました。
これは、アフリカや南米の少年に対する詐欺的な勧誘や、見込みがないと判断された選手を現地に放置する、といった被害を防ぐために設けられたルールです。
つまりFIFA自身が「こうした搾取的な移籍は現に起きていた/起きている」と認めているからこそ、わざわざこの規則が存在します。
このルールがどれほど本気の規制かは、2014年のバルセロナの事例がよく示しています。
バルセロナは規定に反して外国籍の未成年選手を複数登録していたとして、FIFAから2度の移籍期間における新規登録全面禁止という重い処分を受けました。
実はこの一件、日本人ファンにとっても他人事ではありません。
久保建英選手は2011年からバルセロナの下部組織「ラ・マシア」に所属していましたが、この規約19条の執行が強化された影響を受け、2015年に日本へ復帰しています。
世界最高峰のクラブでさえ、そして日本人選手でさえ、この”未成年保護”のルールと無関係ではいられなかったわけです。
さらに、選手の「経済的権利」を投資ファンドなどの第三者が保有する「第三者保有(TPO)」という仕組みも、2015年に禁止されました。
特にブラジルでは、クラブの資金不足を補うために、この仕組みが長年根付いていました。
ただし禁止後も、UEFA会長自身が「創造的な弁護士たちがすでに抜け道を考えている」と認めるほど、完全な根絶には至っていません。
もう一つ、移籍金の一部を育成に関わった下部クラブへ還元する「育成補償・連帯貢献金」という制度もあります。
理念としては素晴らしい仕組みですが、実際にはアフリカの育成クラブ側が請求方法を知らない、あるいは法的な手続きを行う資源がなく、受け取れるはずのお金を受け取れていないケースが多く指摘されています。
つまり、「なんとなく人身売買っぽい」という直感は、①未成年選手の保護がなぜわざわざルール化されているのか、②お金の流れが弱い立場の側に還元されにくい構造があるのか、という2つの本物の問題を、無意識のうちに言い当てているのだと思います。ルールはある。でも執行力に地域差があり、抜け穴も残っている。この”未完成さ”こそが、モヤモヤの正体なのだと思います。

移籍市場の”明るい側面”も、同じくらい本物
ただ、これだけで移籍市場を「暗い話」として片付けてしまうのは、フェアではありません。
今回のワールドカップ2026では、まさに移籍市場を熱くする” 健全な “ブレイクストーリーがいくつも生まれました。
- アユーブ・ブアッディ(モロッコ/リール、18歳):ブラジル・スコットランド戦でDMFとして高評価を獲得し、アーセナル、レアル・マドリード、バルセロナが名乗りを上げる争奪戦に。
市場評価は約4300万ポンド。 - ヤシン・アヤリ(ブライトン、22歳):チュニジア戦でハットトリックを記録し、ニューカッスルが獲得に動いていると報じられています。
- ヨハン・マンザンビ(スイス/フライブルク、20歳):ボスニア・ヘルツェゴビナ戦で途中出場から2得点を挙げ、マンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリードが注目。
- アレックス・フリーマン(米国/ビジャレアル、21歳):堅実な守備で両試合に先発し、エバートンが関心を示していると言われています。
- 上田綺世(日本/フェイエノールト、27歳):2試合で2得点、前シーズンはリーグ得点王という実績を引っさげ、プレミアリーグ・ブンデスリーガ複数クラブから関心を集めています。
読者のみなさんへ、2つの問い
この記事で伝えたかったのは、「移籍市場は良い/悪い」のどちらかに決めつけることではありません。
むしろ、次の2つを同時に持っておくことが、健全な楽しみ方なんじゃないかと思っています。
一つは、ブアッディや上田選手のようなブレイクストーリーを、素直にワクワクしながら追いかけること。
もう一つは、「なぜこの規則があるのか」を知ったうえで、まだ執行が追いついていない部分―
―特に、声を上げにくい立場の選手たちに何が起きているかに―、ときどき目を向けてみること。
移籍市場のニュースを追いながら、次に「このレンタル、なんでこの形なんだろう」と思ったとき、この記事を思い出してもらえたら嬉しいです・🤓

サッカー移籍市場の仕組みと裏側
参考リンク
- 子供の国際移籍条項。その正当性と不当性 – footballista
- バルセロナ移籍禁止処分の経緯と現状 – スポーツナビ
- Controversies over how to enforce TPO ban – Play the Game
- How African Academies Can Recover Forgotten FIFA Solidarity Contributions – African Coaches Connect
- World Cup 2026: Five breakout stars who could earn big transfers – Sports Mole
- 2026-27シーズン日本人選手・海外移籍情報まとめ – 超WORLDサッカー!



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