株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
今日は、8月11日「山の日」です。
中山間地の山と人間社会の関係を、もとに整理したノートをまとめました。
0. はじめに — 問いの再定義
「山の日」をきっかけに立てた問いは、「クマやイノシシと人間、どちらが正しいか」ではありません。
本当に見るべきは、山と人の関係を保っていた仕組みのどこが壊れ、今どんな新しい関係が生まれつつあるのか、という構造の側です。
獣害の増加は結果であり、原因ではありません。
この構造を人間中心の視点だけでなく、声を持たない関係者を含めたシステムとして捉え直し、実践可能な選択肢として整理したものです。
結論を急がず、前提・問い・選択肢を並べることを目的にしています。
1. ステークホルダーを広げる
人間側だけを見れば、林業従事者・猟師・中山間地の住民・都市生活者・行政・企業と並べて話が完結します。
しかし、声を持たない当事者を加えると景色が変わります。
クマ・イノシシ・シカ・サル自身 — 里に出ることを選んでいるのではなく、行き場を失っている可能性がある
下流域 — 河川・農地・都市の水と土砂災害リスク
将来世代 — 担い手のいなくなった山を相続する人たち
この視点に立つと、「害獣対策」という枠組み自体が、人間中心の一つの見方に過ぎないことが見えてきます。
2. 氷山モデルで見る構造
出来事の奥にある構造とメンタルモデルを、氷山に見立てて整理します。
見えているのは水面上の「出来事」だけで、それを支える構造とメンタルモデルは水面下にあります。

| 出来事 | クマ・イノシシ・シカの出没と被害が増えている。 |
| パターン | 過疎化・高齢化が進む中山間地ほど、出没が増加する傾向にある。 |
| 構造 | 林業の担い手・狩猟者の減少により、奥山と里山の境界(緩衝地帯)を維持する人手が消えた 耕作放棄地の増加により、里山が動物の「餌場」化した 木材価格の低迷により間伐が滞り、山そのものも荒れた 気候変動により堅果類(ブナ・ミズナラなど)の凶作年が増え、動物の行動範囲が拡大した |
| メンタルモデル | 「山は放っておけば自然に還る」という誤解 「害獣は排除すべき敵」という二項対立 「経済価値がなければ山は放棄してよい」という価値観 |
動物が変わったのではなく、人間が山との関係を維持する仕組み『林業・狩猟・里山管理という「際(きわ)」の手入れ』を手放したことで、境界そのものが溶けている。
3. レバレッジポイント — 「際(きわ)」の担い手
最小の介入で構造が変わりうる点は、個体数を追う対症療法よりも、奥山と人里の際を誰がどう維持するかという担い手の仕組みにあります。
この一点に絞って施策を設計することが、以下の軸になります。


4. 4つの施策
4-1. 継続的な関わりをつくる
4-2. 経済循環をつくる(ジビエの資源化)
4-3. 半林半Xモデル(生計の再設計) — 軸
林業と狩猟だけで生計を立てる単一収入モデルは、木材価格やジビエ市場の変動一つで担い手が離れる、脆い構造になりやすい。
塩見直紀氏の「半農半X」を下敷きに、半分は林業・狩猟という山の手入れ、残り半分(X)は各自が生計を立てる別の仕事、という複業型の生計モデルを据えます。

Xの中身の例
- ジビエ加工・猟師業との組み合わせ
- 猟師民泊などの宿泊業
- 木工・デザインなどのものづくり
- 森林環境教育
単一収入に担い手を縛らないことで、経済的な揺らぎに強い、持続可能な関わりが生まれます。
これが「際(きわ)」の手入れが途切れにくくなる構造的な狙いです。
導入にあたっての論点
- 行政の補助設計 — 「林業従事者」という単一の職業カテゴリーではなく、複業を前提にした支援制度に組み替える必要がある
- 担い手育成 — 山の技術と、もう一方の生業(デザイン・宿泊・教育など)を両方学べる場が必要
- 地域の受け入れ — 外から来た複業者を、地域がどう迎えるかという合意形成
循環・再生チェック
複業化は担い手個人の持続性を高める一方、地域内での役割の希薄化(誰も専業として山に責任を持たない)につながらないか、継続的な点検が必要。
引き算
山を経済林としてのみ評価する単一指標をやめる。
「専業でなければ本物ではない」という職業観も手放す。

4-4. 可視化する(データ共有)
センサーやカメラで動物の行動域を捉え、境界線を地域で共有できるようにする。
留意点
これは道具であり、それ自体が担い手を生むわけではない。
機器のライフサイクル(製造・廃棄)の環境負荷も点検対象になる。

5. 伝え方 — 誰にどう届けるか
5-1. サステナビリティ志向のビジネス層へ
獣害の増加を「山の経営が破綻したことの兆候」として捉え直すフレーミングが響きます。
駆除という守りの話ではなく、境界管理への投資、ジビエの新市場化、地域との共創(CSV)という事業機会として。
駆除コストではなく、関係性への投資として。
5-2. Z世代・アルファ世代へ
「クマが悪い/人間が悪い」という単純化を避け、自分ごと化できる接点を作ることが鍵になります。
ジビエを食べる、間伐材のプロダクトを使うといった日常の消費行動が山とつながっている感覚。
山との距離を、もう一度縮める。
5-3. 共通のメッセージ
両者に共通させたいのは、「駆除か保護か」ではなく「関係性のマネジメント」という捉え方への転換。

6. 今後に残る問い
「山の日」の振り返りは、結論ではなく、次に考えるための土台です。
- 「半林半X」のXを、この地域では何にできるか
- 担い手への補助を、誰が(自治体か、企業か、両方か)どう設計するか
- 都市側の関わりを、消費で終わらせない仕組みをどう作るか
これらの問いを、「山の日」をきっかけに、これからも考え続けたいと思います。

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