梅雨の時期だからこそ、「雨をやっかいものから資源へ。」

役立つ365-25

株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
― 「内水氾濫」と「雨庭」を、サステナブルデザインの視点で考える

ゲリラ豪雨のたびに、道路が川のようになり、地下空間に水が流れ込む。
こうした内水氾濫は、いまや特別な災害ではなく、私たちのまちの「日常のリスク」になりつつあります。
けれどこの問題を、ただ「排水が追いつかなかった」と片づけてしまってよいのでしょうか。

内水氾濫は、人間が自然の水循環をどう扱ってきたかが返ってきた“こたえ”でもあります。
この記事では、システム思考とサステナブルデザインの視点から、雨と都市の関係を捉え直してみます。

1.内水氾濫は「排水の失敗」ではない

まず言葉の整理から。内水氾濫」とは?
雨水が排水路や下水道で処理しきれず、川に流れ込む前にまちや農地にあふれてしまう浸水のことです。
堤防を越えて川の水があふれる「外水氾濫」とは区別されます。

外水氾濫と内水氾濫

対策というと、つい「ポンプを大きくする」「管を太くする」といった発想になりがちです。
もちろん必要な備えですが、それだけでは、なぜ水があふれるようになったのかという根っこには手が届きません。


2.氷山モデルで掘り下げる ― 本当の原因はどこに?

システム思考の「氷山モデル」で、この問題を層ごとに見てみます。

出来事:豪雨でまちが冠水する。
パターン:気候変動による極端な降雨と、都市化の進行で、発生頻度が上がっている。
構造:地面をアスファルトで覆い、雨を「できるだけ速く下流へ流す」ことを是としてきた集中型のインフラ。(土地利用と水の計画が分断されている。)
メンタルモデル:「雨水はやっかいもの。すぐ取り除くべき」「自然はコントロールする対象だ」という前提。

水面に見えているのは「冠水」という出来事だけですが、その下には構造があり、さらに深いところには私たちのものの見方(メンタルモデル)が沈んでいます。
ポンプの増設は氷山の一角への対処にすぎません。
本当に効くのは、最下層の“前提”を書き換えることです。

都市の氷山モデル

3.グレーからグリーンへ ― 「水を排除する」発想の転換

これまでの「より大きな管・ポンプ・コンクリート」というグレーインフラ中心の発想は、エネルギーを多く使い、機能は単一で、つくった瞬間に炭素を固定してしまいます。

これに対し、雨庭(レインガーデン)や浸透性舗装、緑地といったグリーンインフラは、自然がもともと持っている浸透・貯留・蒸散の力と協働します。
ここで起きている本質的な転換は、技術の置き換えではなく、「水を排除する」から「水のための余地をつくり、水とともに暮らす」へという、価値観そのものの書き換えです。

雨庭(あめにわ / Rain Garden)とは

雨庭とは、屋根や道路、駐車場などに降った雨水を下水道に直接流すのではなく、一時的に窪地(くぼち)に集めて、ゆっくりと地中に浸透させる仕組みを持たせた庭や植え込みのことです。

近年、自然の力を活用して環境課題を解決する「グリーンインフラ」の代表的な手法として、公共施設だけでなく個人の住宅でも注目を集めています。

雨庭が持つ主なメリット

  • 都市型水害の軽減
    大雨が降った際、雨水が一度に下水道や河川へ流れ込むのを防ぎ、冠水や洪水の被害を抑える役割を果たします。
  • 水質の浄化と地下水の涵養(かんよう)
    雨水が土壌を通過する際に、土や植物の根が天然のフィルターとなり、水に含まれる汚れを浄化してから地下水として蓄えます。
  • ヒートアイランド現象の緩和
    土にたっぷり含まれた水分が蒸発する際、気化熱によって周囲の温度を下げる効果があります。
  • 生物多様性の向上
    水と緑が豊かな空間となるため、野鳥や昆虫などが集まる小さな生態系(ビオトープ)が生まれます。

4.環境問題・都市計画における雨庭(社会・マクロの視点)

都市計画の観点では、雨庭はコンクリートやアスファルトなどの「グレーインフラ」に代わる、あるいはそれを補完する「グリーンインフラ(自然が持つ多様な機能を活用したインフラ)」の重要なピースとして位置づけられています。

  • 内水氾濫(都市型水害)の防止:
    都市部では地表の多くがアスファルトで覆われているため、ゲリラ豪雨の際に雨水が地中に浸透せず、一気に下水道に流れ込んで溢れてしまいます。
    街中の公園、歩道の植え込み、各家庭に雨庭を分散させることで、雨水を一時的に貯留し、下水道への負荷を劇的に遅らせる(ピークカット)ことができます。
  • 合流式下水道の越流対策:
    古い都市では、雨水と汚水を同じ管で処理する「合流式」が多く残っています。大雨時に処理能力を超えると、未処理の汚水が雨水と一緒に河川や海へ放流されてしまいます。
    雨庭で雨水の流入量を減らすことは、直接的に河川の水質保全につながります。
  • ノンポイント汚染源の浄化:
    道路に降った雨は、車の排気ガス、タイヤの摩耗粉、油分などの汚染物質を巻き込んで流れ出します。
    雨庭の土壌微生物や植物の根は、これらを河川に流れ込む前に自然の力で濾過・分解するフィルターとして機能します。

5.デザインにできること

サステナブルな視点として
こうして見ると、内水氾濫は「水をどう処理するか」という工学の問題であると同時に、「私たちは自然や水と、どんな関係を結ぶのか」という前提の問題でもあります。

デザインの役割として
地下に隠れて見えない水の流れや、まちが水を通さなくなっている構造を可視化すること。
雨庭のように、治水・生態系・景観・市民参加を一つの体験へと翻訳し、人々の参加と行動の変化を引き出すこと。

社会的価値と経済的価値をつなぐ構造の翻訳者として
雨とのつき合い方をデザインし直すことは、これからのまちの「みらい」をデザインすることに、そのままつながっています。

6.まとめ

  • 内水氾濫は排水の失敗ではなく、自然の水循環を断ってきた構造からのフィードバック。
  • 氷山モデルで見れば、本当の原因は「雨水はやっかいもの」という私たちの前提にある。
  • グレーからグリーンへ。水を「排除する」から「資源として循環させる」発想へ転換する。
  • グリーンインフラは、治水・生態系・気候・景観・ウェルビーイングを同時に満たすマルチベネフィット。
  • 流域治水は、協働・分散へと意思決定の構造を変える統治の革新。
    デザインはその翻訳者になれる。
  • 雨庭は、住まいと都市をつなぐグリーンインフラ。

内水氾濫

雨庭

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