株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
手を動かす若者たちは、なぜサーキュラーエコノミーの鍵を握るのか?
「大学には行かない。手に職をつける」——
そう宣言する若者が、アメリカを中心に増えています。
電気工事士、配管工、大工、溶接工。
かつては「ブルーカラー」として軽視されがちだったこれらの職業を、Z世代の一部が積極的に選び始めています。
彼らは「ツールベルト世代(Tool Belt Generation)」と呼ばれています。
この現象を、単なる学歴離れとして捉えるのは早計です。
デザインとサステナビリティの観点から見ると、ツールベルト世代は大量消費社会の次のステージを物理的に支える存在として、まったく違う意味を帯びてきます。
1. 「ツールベルト世代」とは何か
「ツールベルト世代」とは、高等教育よりも職業訓練・技術習得を選ぶ Z世代の若者層を指します。
その背景には、複合的な社会変化があります。
この世代が生まれた背景
大学学費の高騰と奨学金ローン問題への懐疑
熟練職人の高齢化による人材不足と、それに伴う賃金上昇
デスクワーク・テック系キャリアへの反発と飽き
「手に職」という具体的な価値への回帰

2. 「つくる手」の復権とデザイン思想の転換
20世紀のデザインは、大量生産・大量消費を支える造形の論理でした。
設計者が図面を引き、工場が作り、消費者が使い捨てる——
この分業が当たり前でした。
しかし「ツールベルト世代」が体現するのは、素材を知り、構造を理解し、自分の手で介入できるという感覚です。
これはデザイン思想における重要な転換点と重なります。
| 20世紀型デザイン | ツールベルト世代が促す転換 |
| • 設計と製作の分離 | • 設計と製作の統合 |
| • 大量生産・均質化 | • 手仕事・ローカル生産 |
| • 廃棄を前提とした設計 | • 修理・再利用を前提とした設計 |
| • 消費者は受け身の存在 | • 使い手が能動的に介入 |
19世紀、ウィリアム・モリスが「アーツ・アンド・クラフツ運動」で問い直した「工業化による手仕事の喪失」という問題が、今また別の形で問い直されています。
ただし今回は、環境危機という現実が背景にあります。
3. リペアカルチャーとの接続
ツールベルト世代が持つスキルセット——
配線、配管、木工、溶接——は、そのまま修理・修繕の能力です。
「壊れたら捨てる」経済のオルタナティブとして、リペアカルチャーが世界的に広がっています。
| リペアカフェ | 地域で集まり壊れたものを一緒に直す市民活動。 欧州発で世界2,000拠点超に拡大 |
| 修理する権利 | Right to Repair法制化の動き。 EU・米国で製品の修理容易性の義務づけが進行中 |
| バックワード設計 | 解体・修理しやすさを前提に製品を設計する思想。 「廃棄からの逆算」でデザインする |
ツールベルト世代はこの文化の実践的な担い手になり得ます。
知識として「修理が大切」と知っている人と、実際に直せる人とでは、社会インフラとしての価値がまったく異なります。
4. サーキュラーエコノミーの「川中」を担う
サーキュラーエコノミーの議論は、川上(持続可能な設計)と川下(回収・リサイクル)に集中しがちです。
しかし実際のループを機能させるには、中間の「修理・再活用」フェーズが不可欠です。
ここにこそ、「ツールベルト世代のスキル」が入ります。
| 1 設計(Design for Disassembly) 解体・修理を前提とした製品設計 |
| 2 使用 消費者による製品の利用期間 |
| 3 修理・メンテナンス ← ツールベルト世代のスキルが機能するフェーズ |
| 4 リファービッシュ・アップサイクル ← ここでも実技スキルが不可欠 |
| 5 素材回収・再投入 分解して素材を循環ループへ戻す |
なぜ「川中」が重要か
川上・川下の仕組みは整いつつあるが、「直す・活かす」中間フェーズの人材が最も不足している
ツールベルト世代は、サーキュラーエコノミーを絵に描いた餅から現実にする存在
5. ローカル生産とレジリエントな経済設計
コロナ禍と地政学リスクが可視化したグローバルサプライチェーンの脆弱性。
これを受けて「ニアショアリング」「ローカルファースト」の動きが加速しています。
ここでツールベルト世代の存在が地域経済の根本的なインフラになります。
ローカル生産がもたらすもの
地元で設計し、地元で作れる技術者がいること
素材の調達から施工まで「顔の見える関係」でできること
輸送コスト・CO2排出の削減
地域内での経済循環(リペア・メンテナンス市場の内製化)
これは単なる「地産地消」ではなく、危機に強い地域経済の設計です。
デザインの役割は、そのシステムを可視化・最適化・魅力化することにあります。
6. 職人・技術者との「コデザイン」モデル
デザイナーが現場技術者と早期から協働する「コデザイン(Co-design)」——
この設計プロセスこそが、ツールベルト世代の台頭が促す最も具体的なデザイン実践の変化です。
後工程で発覚する典型的な問題
「美しいが作れない」——施工・製造の現実を無視した設計
「作れるが直せない」——メンテナンスを考慮しない構造
「直せるが素材が循環しない」——解体・分別を想定しない仕上げ
これらは設計初期段階に技術者の知見が入っていないことで起きます。
コデザインモデルはこの構造を根本から変えます。
コデザインの4つのフェーズ
| 1 素材・工法の共同リサーチ 職人が持つ素材知識をデザイン初期に投入。 「何で作れるか」から発想を始める |
| 2 プロトタイピングの現場化 図面ではなく、実際の素材・道具で試作。 手触りのある検証が設計精度を上げる |
| 3 修理・解体シナリオの設計込み 「10年後にどう直すか」「どう分解して資源化するか」を設計時点で決める |
| 4 現場フィードバックの継続的な反映 施工・製造・使用段階での気づきを次の設計サイクルへ。 知識が組織に蓄積される |
日本の文脈:職人知の可視化という課題
日本には世界が注目する職人文化があります。
しかしその知識の多くは「暗黙知」として個人に留まり、設計プロセスに構造的に組み込まれていないケースが大半です。
ツールベルト世代の台頭は、この暗黙知を形式知に変換し、デザインプロセスに統合する絶好の機会でもあります。
若い技術者が自らの仕事をSNSで発信し、言語化する文化を持っていることは、この点で非常に重要です。
コデザイン導入のための具体的なアクション
職人の技術・判断をデザインドキュメントとして記録・共有する仕組みづくり
デザイナーと技術者が同席するキックオフ・レビューの標準化
「作れる・直せる・循環できる」の3軸でデザインを評価するチェックリストの導入
7. デザイン会社としての実践的示唆
コデザインを含め、この文脈全体を踏まえてデザインの現場で何ができるか。
3つの視点を提示します。
①コデザインモデルの組織実装
デザイナーと現場技術者の協働を「プロジェクト終盤の確認」から「プロジェクト初期の共創」へ移行させる。
チーム編成・プロセス設計・評価軸の見直しが必要です。
②「修理容易性」の設計指標化
修理容易性(Repairability Score)をデザイン評価の軸に組み込む動きが、EU規制でも義務化が始まっています。
日本でも先行してこれをデザインKPIに採用することが、競争優位になり得ます。
③スキル軸のサステナビリティ・ナラティブ
企業のサステナビリティ発信において、ツールベルト世代は「実践者」として非常に説得力のある声を持っています。
共感軸ではなく、スキル軸のサステナビリティという新しいコミュニケーション設計が生まれています。
8. おわりに
SDGsの取り組み



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