株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
生物多様性とシステム思考――連載①/全3回
テーマ:「氷山モデル」|デザインで「みらい」をつくる会社へ。
種の絶滅という「出来事」に手を打っても、なぜ同じことが繰り返されるのか?
氷山モデルで水面下を覗くと、見えていなかった構造が立ち上がってきます。
毎年のように、ある生きものが絶滅危惧種に指定されたというニュースが流れます。
私たちはそのたびに胸を痛め、保護区をつくり、個体を保護し、漁を制限します。
けれど、種の減少そのものはなかなか止まりません。
なぜでしょうか?
システム思考には、この「なぜ効かないのか」を解きほぐすための道具があります。
それは、「氷山モデル」です。
私たちは「出来事」にばかり反応している
氷山は、海面の上に出ている部分がほんの一角で、本体は水面下に沈んでいます。
社会や生態系の問題も同じだ、というのがこのモデルの出発点です。
私たちが日々ニュースとして受け取るのは、氷山の頂上にあたる「出来事」のレベル。
その下には、三つの層が隠れています。
- 出来事:いま目の前で起きていること(種の指定、価格の高騰)
- パターン:時間をかけて繰り返されている傾向(個体数の長期的な減少)
- 構造:その傾向を生み出している仕組み(法制度、経済の流れ、土地利用)
- メンタルモデル:構造を支えている、私たちの無意識の前提や価値観
出来事のレベルで打つ手は「対症療法」になりがちです。
「火が出たら消す」その繰り返しからは抜け出せません。
本当に流れを変えたいなら、もっと下の層に降りていく必要があります。

「ニホンウナギ」で、氷山を降りてみる
抽象的な話を、私たちにとって身近なニホンウナギで具体化してみましょう。
四つの層を一段ずつ降りていきます。
出来事――土用の丑の日の品薄ニュース
ニホンウナギは絶滅危惧種に指定され、稚魚(シラスウナギ)の不漁が続き、価格が高騰しています。
私たちが反応するのはこのレベルで、対策も「稚魚の放流」「漁獲量の制限」といった個別対応になりがちです。
パターン――数十年続く右肩下がり
一歩引いて時間軸で眺めると、これは突発的な事件ではありません。
漁獲量は数十年にわたって減少を続けてきました。
単発の不漁ではなく、長期的な「傾向」として進行しているのです。
構造――出来事を生み出している配管
ではなぜ減り続けるのか?
ここに構造の層があります。
河川改修やダム、護岸によってウナギが育つ環境そのものが失われてきたこと。
稚魚をやり取りする複雑な国際取引のサプライチェーン。
そして、安く大量に流通させることを前提とした経済の仕組み。
これらは出来事を生み出している「配管」のようなもので、ここに触れない限り水は同じところから漏れ続けます。
メンタルモデル――構造を支える前提
構造のさらに奥には、私たちの前提があります。
「自然は使っても回復する無限の資源だ」「旬の安いウナギを好きなだけ食べられることが豊かさだ」。
こうした無意識の価値観が、いまの構造を当たり前のものとして支えています。
メンタルモデルが変わらなければ、たとえ規制をつくっても抜け道を探す力学が働いてしまいます。
深い層に手を入れるほど、変化は大きい
デザインにできること――見えない層を、見えるようにする
ここに、デザインの出番があります。
構造やメンタルモデルは目に見えないからこそ、人は出来事のレベルで思考を止めてしまう。
私たちの仕事は、その見えない層を可視化し、語りなおすことです。
複雑なサプライチェーンを一枚の図にする。
「無限の資源」という前提を揺さぶる体験を設計する。
生物多様性という抽象的なテーマを、人が自分ごととして感じられる物語や手触りに翻訳する。
デザインは、氷山の水面下を照らすライトになれます。
次回予告:第2回は「レバレッジポイント」。
氷山の深い層が大事だとわかった上で、ではどこに力を入れれば実際にシステムが動くのか——
介入点の強弱を整理します。
SDGsの取り組み



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