株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
生物多様性とシステム思考――連載③/全3回
テーマ:「3つの事例」|デザインで「みらい」をつくる会社へ。
理論は物語になってはじめて記憶に残ります。
「意図せざる結果」
「栄養カスケード」
「人と自然の結合」
性格の異なる3つの事例で、生態系というシステムのふるまいを体感します。
これまで2回にわたって、「氷山モデル」と「レバレッジポイント」という2つの道具を見てきました。
最終回は、抽象論を物語に落とします。
生態系がシステムとしてどう振る舞うのか、性格の違う3つのエピソードで腑に落としていきましょう。
物語1:ボルネオの猫の空挺作戦――意図せざる結果
1950年代、ボルネオ島でマラリア対策のために殺虫剤DDTが大量に散布されました。
狙いどおり蚊は減りましたが、話はそこで終わりませんでした。
殺虫剤は害虫だけでなく、それを食べるヤモリにも蓄積します。
毒を抱えたヤモリを猫が食べ、猫が次々に死にました。
猫が減るとネズミが爆発的に増え、今度はペストなど別の病気のリスクが高まってしまったのです。
困った当局は、なんとパラシュートで猫を山間部に空輸しました。
後に「キャット・ドロップ作戦」と呼ばれる出来事です。
一つの介入が、食物連鎖というネットワークを伝って、まったく予想しなかった結果を生む。
これがシステム思考のいう「意図せざる結果」であり、生態系というつながりの中では、単純な因果でものごとが進まないことの典型例です。
なお細部には語り継がれるうちの脚色もありますが、骨格としての教訓は確かなものです。

物語2:イエローストーンのオオカミ――栄養カスケード
次は逆向きの物語です。
米国イエローストーン国立公園では、20世紀前半にオオカミが駆除され、姿を消していました。
1995年、約70年ぶりにオオカミが再導入されます。
すると、上から下へ連鎖反応が起きました。
頂点捕食者が戻ったことで、増えすぎていたシカ(エルク)の数と行動が変わります。
シカが一か所に留まって食べ尽くすことが減り、川辺の柳やポプラが回復。
すると、それを利用するビーバーや鳥が戻ってきました。
一つの種が生態系全体を上から再構成していく——
これを「栄養カスケード」
その引き金となる種を「キーストーン種」と呼びます。
前回のレバレッジポイントでいえば、ごく一点への介入が系全体を動かした例です。
物語3:日本の里山――人と自然の結合
3つめは、私たちの足もとの物語です。
日本の里山は、長らく「手つかずの自然」ではなく、人の手が継続的に入ることで保たれてきた環境でした。
薪を採り、下草を刈り、田畑とまじりあう。
その適度なかく乱が、かえって多様な生きもののすみかを生んでいたのです。
ところが過疎化と高齢化で人の手が入らなくなると、里山の生物多様性はむしろ低下していきました。
これは「手つかずの自然が一番よい」という私たちのメンタルモデルを静かに揺さぶります。
人間と自然を切り離して考えるのではなく、両者が結びついた一つのシステム(社会生態システム)として捉える視点が必要だと教えてくれる、日本ならではの事例です。
3つの物語が共通して語ること
ボルネオは「悪い波及」
イエローストーンは「良い波及」
里山は「人と自然の結合」
性格は違いますが、3つとも同じことを言っています。
生態系は要素の足し算ではなく、つながりが生み出すふるまいでできている、と。
だからこそ、一点への働きかけが思わぬところに波及し、ときに私たちの常識を裏切るのです。
デザインと物語――複雑さを、伝わる形に
システムの複雑さは、そのままでは伝わりません。
数字や因果図だけでは、人の行動はなかなか変わらない。
けれど物語になった瞬間、複雑なつながりが記憶に残り、語り継がれ、人を動かしはじめます。
優れた物語を設計することは、それ自体がシステム思考の実践です。
私たちが生物多様性や持続可能性のテーマを扱うとき、データを正確に示すことと同じくらい、それを「腑に落ちる物語」へ翻訳することを大切にしたい。
複雑さを、伝わる形に変えること——
そこにデザインで未来をつくる、という私たちの仕事の核心があると考えています。
連載を終えて:氷山モデルで問題の深さを見て、レバレッジポイントで打ち手の優先順位を定め、事例で記憶に刻む。
この3つを携えれば、生物多様性は「守るべきかわいそうな対象」から、「私たちが一部であるシステム」へと姿を変えて見えてくるはずです。
SDGsの取り組み



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