株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
生物多様性とシステム思考――連載②/全3回
テーマ:「レバレッジポイント」|デザインで「みらい」をつくる会社へ。
問題の深さが見えても、すべての層に同時に手は打てません。
限られた力をどこに注げば効くのか?
システム思考の「レバレッジポイント」が、打ち手の優先順位を教えてくれます。
前回は氷山モデルで、生物多様性の問題が出来事の下に構造やメンタルモデルを隠していることを見ました。
では、限られた予算や時間を、いったいどこに注げば最も効くのでしょうか。
この問いに正面から答えたのが、システム思考の先駆者ドネラ・メドウズです。
彼女はもともと環境科学者で、『成長の限界』の共著者でもありました。
システム思考と持続可能性は、思想の出自からして地続きなのです。
レバレッジポイントとは何か
レバレッジ(leverage)は「てこ」のこと。
小さな力で大きく動かせる支点のことを、レバレッジポイント=介入点と呼びます。
メドウズは、システムを変える介入点を効きの弱い順から強い順まで段階的に並べました。
ここでは三つのグループに整理して見ていきます。
① 効きの弱い介入――「パラメータをいじる」
最も手をつけやすく、しかし最も効きにくいのが「数字いじり」です。
保護区の面積を数パーセント増やす、補助金や罰金の額を変える、目標数値を設定する。
やりやすいので政策の中心になりがちですが、システムの基本的な振る舞いそのものはなかなか変わりません。水道の蛇口の開き具合を微調整しているようなもので、配管の構造には触れていないのです。
② 中くらいの介入――「情報の流れとルールを変える」
一段効きが強くなるのが、情報の流れとルールへの介入です。
情報の流れを変えるとは、それまで見えなかったものを「見える化」すること。
たとえば企業に自然への依存と影響を開示させる仕組み(自然関連の情報開示の枠組み)は、意思決定者の目の前に新しい情報を置きます。
人は手元に届く情報が変わると、判断を変えます。
ルールを変えるとは、システムの中で何が許され、何が罰せられるかという制度設計に触れること。
取引規制や保護法制の変更がこれにあたります。
パラメータより深く、システムの動き方そのものに影響します。
③ 最も強い介入――「目標とパラダイムを変える」
メドウズが最も強力だとしたのは、システムの「目標」、そしてその奥にある「パラダイム(前提となる世界観)」を書き換えることです。
目標の転換とは、たとえば「経済成長を最大化する」という目標を、「自然を回復させる(ネイチャーポジティブ)」という目標に置き換えること。
システムが何に向かって最適化されているか、その向き先を変える介入です。
パラダイムの転換は、さらに根が深い。
「人間は自然の外側から資源を使う存在だ」という前提を、「経済は生態系という大きな系の一部にすぎない」という前提に入れ替える。
プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)という考え方は、まさにこのパラダイム転換を促すものです。
前提が変われば、その上に立つ目標も構造もパラメータも、連鎖的に意味を変えていきます。

メドウズの逆説――「人は弱い点ばかり押す」
ここでメドウズは鋭いことを指摘します。
人は直感的に、最も効きの弱いパラメータばかりを押したがる。
しかも、「しばしば逆方向に押してしまう」、と。
補助金の額を議論するのは具体的で取り組みやすい。
一方で「私たちは自然をどう捉えているのか」というパラダイムの問い直しは、抽象的で、抵抗も大きく、後回しにされがちです。
けれど、本当にレバレッジが効くのは後者なのです。
効きにくい場所に労力が集中し、効く場所が手つかずになる——
これが多くの環境政策が空回りする理由でもあります。
デザインの役割――「パラダイムを手で触れるものにする」
最も強いレバレッジであるパラダイム転換は、同時に最も難しい。
世界観は説教では変わらないからです。
ここにデザインの本質的な役割があります。
新しい前提を、人が体験できる形に翻訳すること。
「自然は回復させる対象だ」という世界観を、製品やサービス、空間や物語として手触りのあるものにする。
抽象的な目標を、日々の選択の中で自然に選びたくなる選択肢として設計する。
デザインは、最も効きにくいレバレッジである人々の前提に、最も具体的な入り口から働きかけられる数少ない手段なのです。
次回予告:最終回は「事例」。
意図せざる結果、栄養カスケード、人と自然の結合——
「3つの物語」を通して、システムのふるまいを体で腑に落とします。
SDGsの取り組み



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