芝生はインフラである【FIFA WC2026-9】

芝生はインフラである

株式会社あさひデザインワークスの黒岩です。
── 16会場・天然芝導入の決断が問いかける、生態系とデザインの関係。

ピッチの緑は、ただの「背景」ではない。
サッカーを観るとき、私たちの目はボールと選手を追う。
けれど試合の舞台となる緑の絨毯(芝生)は、じつは複雑な生態系であり、都市インフラであり、そして環境設計の産物だ。
FIFA ワールドカップ2026では、全16会場に天然芝の導入が義務づけられた。
これは「選手のプレー品質を上げるため」だけではない。
天然芝という選択は、気候・生態系・都市熱環境・水資源といった複数の課題に同時に応える、サステナブルなインフラ設計の判断だ。
今日は「芝生」という切り口から、私たちが普段見えていないデザインの層を掘り起こしたい。

目次

01  天然芝 vs 人工芝:数字で見る環境差

「天然芝と人工芝、どちらが環境にいいか」——この問いは一見単純に見えるが、ライフサイクル全体で考えると複雑だ。まず基本的な比較から始めよう。

単純に「どちらが優れているか」ではなく、気候条件・使用頻度・廃棄コストを含めたライフサイクル全体で評価する必要がある。
ただしFIFAが全会場で天然芝を選んだ背景には、「廃棄後の環境残留」と「都市熱島への影響」という2点が強く働いている。

02  芝生が提供する4つの「生態系サービス」

生態学の世界では、自然がもたらす恩恵を「生態系サービス」と呼ぶ。
天然芝のスタジアムは、競技施設であると同時に、都市の中で複数の生態系サービスを提供するインフラでもある。

スタジアムの芝生を「競技面」としてだけ設計すると、都市インフラとしての可能性を半分も引き出せない。
— スポーツ施設設計における生態学的アプローチより(意訳)

03  会場別:気候に応じた芝草の選択

天然芝と一言で言っても、気候・土壌・使用頻度に応じて最適な草種は異なる。
WC2026の16会場は北緯20~49度にわたり、砂漠性気候から冷帯まで多様な環境条件を跨いでいる。

特に注目すべきはバンクーバーのBCプレイスだ。
屋根付きの屋内スタジアムで天然芝を維持するには、太陽光の代わりにLEDの成長ライトを使い、換気と温度管理を精密にコントロールする必要がある。それはもはや農業技術と建築技術の融合だ。

04  水の問題:乾燥地帯での天然芝という矛盾

天然芝の「影」の部分も直視しなければならない。
水資源の問題だ。
ロサンゼルスやダラスのような乾燥・半乾燥地帯での天然芝の維持は、大量の灌漑水を必要とする。
カリフォルニア州はかねてより深刻な水不足に直面しており、「スポーツ施設のために貴重な水を使っていいのか」という問いは正当だ。

これらの技術は「天然芝を諦める」のではなく「天然芝を水と共存させる」設計だ。
制約の中で最良の解を探す——
それはまさに、デザイン思考が得意とするアプローチでもある。

05  「芝生はインフラ」という発想をデザインに応用する

3カ国共催というプロジェクトが実践している「共存のデザイン」には、私たちの仕事に直接応用できる普遍的な原則がある。

06  デザイン会社として読む:「多主体プロジェクト」の設計

「芝生はインフラである」という考え方は、私たちのデザインワークに直接応用できる思考の転換を促している。

「インフラ」とは、使われるときだけでなく、使われていないときも機能し続ける仕組みだ。
天然芝はサッカーの試合がない日も、CO₂を吸収し、水を浸透させ、虫を育てている。

私たちがデザインするブランドやコミュニケーションも、そういう「静かに働き続けるもの」であってほしいと思う。

06  Z世代へ:「芝の色」が変わったとき、気づける目を持つ

試合中継を観るとき、ピッチの芝の色に注目してほしい。
濃い緑の縞模様は、芝刈りの方向によって生まれる光の反射差だ。均一に見えるピッチの下には、何百万もの微生物が働いている土壌がある。
「こんなことを考えながら観るのか」と思うかもしれない。
でもそれがデザイナーの目だ——
当たり前のものの中に、複雑な設計と意図を見出す視点。その視点を持つと、サッカーが10倍豊かになる。
そしてもし試合後のスタジアムで、泥だらけのピッチを見たら——それはそのまま、生きているインフラの証拠だ。

SDGsの取り組み

目標 4 質の高い教育をみんなに
目標12 つくる責任つかう責任
目標17 パートナーシップで目標を達成しよう
をメインにサポート業務に取り組みます。
(2026年度 SDGsの取り組み)

株式会社あさひデザインワークスは
「前橋SDGsパートナー」に登録されました。(登録番号:109)

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